静寂にして尊大に13

皇后の手紙

意気込んで来たミニョだったが、

残月の名が掛かった屋敷の前では二度三度と行ったり来たりを繰り返し、

門を叩くまでに何度もその小さな手で、作ったこぶしを握り締めて、

自分を奮い立たせなければならなかった。

それでもなんとか門から出て来た下男らしき者を捕まえて、

薬屋である事を伝えて中に入れてもらうと、奥から声が聞こえてくる。

くすり屋〜?

声を上げながら、奥から出て来たマフニが、

突然やって来た薬屋を名乗るミニョを眉をしかめながら見た。

ここにいらっしゃる旦那様は仮面を付けていらっしゃいますよね。

もし、傷、出来物の類でしたら、よく効く薬があります。

ミニョは用意していた薬瓶を取り出して言う。

だがフニはそれを見ることなく、手でもって追い返そうとする。

あっああ待ってください。他にも良い薬が揃っています。

一度旦那様に見て頂けたら〜〜〜〜

ミニョは、奥にいるだろうテギョンに向かって声を上げる。

とにかく顔を合わせる事だけを考えてやって来たのだ、

このまま追い返される訳にはいかない。

そんな二人の声は、奥の部屋に居るジョンヲルの耳にまで届いた。

賑やかなのが性分とはいえ、屋敷の中で騒ぐ事は滅多にないマフニと、女性の声、

怪訝な顔をしてジョンヲルが姿を現した。

旦那様。

ミニョはマフニをすっ飛ばして、トトッとジョンヲルの前に進み出た。

当然見覚えのある顔に訝しむはずだと考えていたミニョは、

何も知らない顔で上目に見上げてはお願いしますよと手を合わせる。

何故ここに?何か気付いたのか?

ジョンヲルは猜疑心と共に一年前の宮殿での記憶がよみがえる。

仇討を目論んではいたが、ファンテギョンはあの夜に死んだ。

ならここに来たのは偶然か。

その考えから、このまま追い払うべきだと背を向け掛けたジョンヲルだったが、

ミニョの横にいた女性が言ったお嬢さまという言葉が思い出された。

見てから決める。

行きかけた足を止め、少し考えてから、背を向けたまま言うと、そのまま奥へと入っていく。

ええっヲルさま、こんな素性も分からない者から買うんですか。

慌ててフニが追いだしたそうに、ジョンヲルを止めようと言ったが、

だから見てからと言った。

低い声、背の威圧感、

フニはジョンヲルの言葉に仕方なさそうに顎でミニョに奥へ進むよう促した。

奥へと通されたミニョはキョロキョロと辺りを見回した。

何が気になる。

あっいえ、すみません。

ミニョの様子にジョンヲルが訊き、ミニョは慌てて見回していた顔をジョンヲルに戻して謝った。

それから背負っていた薬箱を下ろし、中からいくつかの薬草と小瓶を取り出す。

これは傷によく効く薬で、こっちは出来物に、それからこっちは火傷用で、

これはかぶれや湿疹を抑えてくれる物です。

仮面の下を気にした様子で説明し、テギョンはそんなミニョを凝視する。

あのどれも必要ないですか。もしかして、痣あざでしょうか。

あまり嘘の上手でないミニョが、誤魔化す為にと考えておいた言葉だ。

落ちつきなく箱の中を探って、

でしたらこのこ香草はいかがでしょうか、よく眠れるはずです。

ミニョは幽閉されたテギョンが夜眠れずにいた事から、選んでおいた物だ。

お香のように焚たいて頂くだけです。

言いながら袋の中から乾燥させた葉を取り出して見せる。

これらはすべて胡国の山で採れる植物だ。

それをジョンヲルが手にとって見るのを、ミニョは黙って見ていた。

これを採った山は、あの事件の時、王宮から逃げ伸びて、兄ミナムと再会した山、

これが採れる山に今もミナムは居る。

いいだろう、ならそれを貰おう。

ジョンヲルの声にハッとしてミニョはその目を丸くした。

知らないふりで様子を探っているだけだと考えていたが、買うとは思っていなかった。

もしかして顔を覚えていないのかもと考える。

宮女の顔などいちいちしっかり見ないだろうし、見たとしても覚えておく必要はない。

ミニョはすっかり自分が刺客となって襲った事を忘れていた。

名前を変え、仮面を付けてまで隠している正体なのだから、

このまま知らないふりで近づけば、何か情報を得られえるかもと思う。

ミニョが考えを巡らしていると、ジョンヲルに突然名前を訊かれた。

えっと、あの

名前を忘れたのか。それとも私には言いたくないのか。

えっあっそんなこと

とっさの言葉が出てこない、

隠す方が疑われるかもとも考える。

考えがまとまらないままミニョは、コミニョと口走った。

ココミニョです。

コ胡国の者か、それで言いためらったのか。

ミニョは小さく頷いた。

胡国でもその仕事をしていたのか。

あええ、そうです。胡国は薬草が豊富です。

でも胡国の薬屋は信用できませんか。

探るようにミニョはジョンヲルの仮面の奥を見ようと目を凝らした。

香草は、二日に一度届けるように。

ジョンヲルの方も、仮面の奥の目を細めて言う。

二人はお互いに、

相手が自分の目的を知るために、近づく事を選んだのだとは、考えてはいなかった。

。。。。

やっと対面、ここで、文中には書かなかったテギョンの心理を書いておきます。

後、ミニョに話すかもなんだけど、まあいいよね〜。

テギョンがミニョを招き入れたのは、ミニョが刺客だったからなのと、

胡国が他にはない薬を持っている事を知っているから、

そして、ミニョがお嬢さまと呼ばれていた事の3つからなんですが、

お嬢さまには見えない格好で、薬屋らしく薬を売りに来てるんですよ、ミニョが。

この時、テギョンの中の何か、勘みたいなものが働いています。

その勘は大当たりではないにしても当たっているんだけど、

この時はもしそうなら駒として使えるかも程度に計算して呼びとめたんです。

まっそんな事は後〜出て来るので、ここではテギョンとミニョに接点ができたってだけです。

ホント、ラブラインがまったりでごめんねー。

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